ー その5 ー



 この写真は「ブエナ・ビスタ...」のジャケット等で彼自身が抱えて持っていたものとして見た方もいると思いますが、前ページでも述べた "Estrellas Negras" でパナマに行った時のものです。1946年5月24日とサインしてあります。ルベンの字はいつもこういう「ミミズ字」で判読するのがやたら難しいのですが、どうやらこれはある女性のためにサインしたみたいですね。これがどういう経緯で彼の手に戻ったのかわかりませんが、もしかしたらなんか訳ありかも(不粋な憶測)。でも、いい顔してますね、26才のルベン。若き逸材として前途揚々なこの時期、エネルギーに満ちあふれた顔をしています。

 なんか不思議と笑いが込み上げてくるこの写真。これも "Estrellas Negras" のメンバーとのスナップです。奥さん曰く、というかルベンがそう言っていたのかもしれませんが、この頃、結婚する前はやはりモテモテだったらしく、何人も彼女がいたそうです。若くしてバリバリに仕事をしていて、しかも高いギャラを取っていたら(実際彼の報酬はどこでも特別だったそうです)モテモテは当たり前かもしれませんが、今回初めて知って本当にビックリしたのは、彼は結婚する前に5人の女性との間に5人の子供を作っていたということです。そういえば、以前彼の家にいた時にルベンにそっくりな人(ボクと同じぐらいの年令)が入って来て、思わず「あなたは誰?」と訊ねたら、「ルベンの息子
だよ、ほらソックリだろ」と言っていたのを思い出しました。キューバ人は今もそうですが、結婚離婚は頻繁で、結婚していなくてもいとも簡単に子供を作るし、別にそのことを隠すわけでもなく、またその子供達が一緒に住んでいるなんていうのもざらです。だからその時は「きっと彼は結婚する前の子供なんだろうな」と軽く考えていましたが、それにしてもまだあと4人もいるとは...。やはりデキる人はやることも違いますねえ。

 本題に戻りましょう。"Estrellas Negras" のツアーから帰ってきて再び「ひっぱりだこ」になるのですが、これも初めて知ったことなのですが、彼は "Antonio Arcaño y sus Maravillas" にも一時在籍していたそうです。このバンドは Antonio Arcaño (flute) が Orestes (cello, pf) と Cachao (bass) のロペス兄弟と共に、それまではおざなり程度だったダンソンの後のモントゥーノを大幅に拡張し、それを "Nuevo Ritmo" と呼んで大ブレイクしました。ルベンが在籍していたのはたぶん50年代に入ってからだと思いますが、絶頂期には間違いありません。なるほどと納得したのは、彼のその後の輝かしい人脈がここで生まれたといえるからです。 "Antonio Arcaño y sus Maravillas" がいかに凄いメンバーを揃えていたかということと、ルベンとのその後の接点を知るために主だったメンバーを表にしてみましょう。([ ]内がその後の主な移籍先です)


Ruben (pf)
[Orq. America]
[Orq. Jorrin]
Enrique Jorrin (violin)
[Orq. America]
[Orq. Jorrin]
Tony Sanchez (violin)
[Orq. America]
[Fajardo y sus Estrellas]
Elio Valdes (violin)
[Fajardo y sus Estrellas]
[Orq. Jorrin]

Felix Reina (violin)
[Fajardo y sus Estrellas]
[Estrellas Cubanas]
Gustavo Tamayo (guiro)
[Orq. America]
[Los Amigos]
Israel Lopez "Cachao" (bass)
[Fajardo y sus Estrellas]

Jose Fajardo (flute)
[Fajardo y sus Estrellas]
Ulpiano Diaz (timbales)
[Fajardo y sus Estrellas]
[Estrellas Cubanas]
Jesus Lopez (pf)
[Fajardo y sus Estrellas]

 Jose Fajardoが自分のバンドを作ったのが49年ですから、ピアノのヘスス・ロペスを含めゴソっと抜けたところにルベンが入ったのでしょう。そして残ったメンバー達が Orquesta America に移ったということがこの表でわかります。それにしても凄いメンバーですね。一人づつ紹介したらあと10ページは必要なくらいです。

 Arsenio Rodríguez → Antonio Arcaño y sus Maravillas → Orquesta Riverside → Orquesta Jorrin というルベンの経歴。これはすごいですね。わかりやすく言えば、ビートルズ→ストーンズ→レッド・ツェッペリン→ディープ・パープルみたいなもんです(笑)。これで彼がどんなにすごい人だったかが皆さんにもおわかりいただければ、このコラムを書いたかいがあります。尚、奥さんが言っていたのですが、どうやらルベンの伝記を書こうとしている人がいるそうです。いつ本になるかは神のみぞ知るといったところですが、それはそれでとても楽しみですね。まだ知らないことも出てくるかもしれないし、もしかしたらこの記事に間違いを発見できるかもしれません。その時はどうぞ御容赦を。

 今回で9回目になるキューバ旅行。今までで最も短い期間の滞在でしたが、得るものはとても多かったといえます。初めて訪れた時から、行くたびにいつも会っていたルベンとの思い出、一緒に録音した経験等はボクの人生にとって宝といえるものです。でもそれらは残念ながら過去のものとなってしまいました。これからもキューバを訪れる機会があると思いますが、今回のお墓を訪ねた旅行で、ボクの心の中に一つピリオドを打った、という気持ちになりました。


ここまで読んだ人は、御意見、御感想を「必ず」B B S のほうに投稿してくださいね。
尚、写真の無断転用は御容赦ください。

← LAST TOP